鶴の一声

靏繁樹が日々考えたことや思いついたことを徒然とかきます

*

杣人伝 その34

   

 老人は、丸山に向かって言った。
「貴女が、ツルギと会うことになったのは、実は偶然ではないのです」
 丸山は、まさか自分と関矢に何かの縁があるなどと想像もしていなかったが、京都で会った神主にも、同じようなことを言われたのを思い出した。

「ご覧の通り、この村にはツルギの他に、若者と言えば娘が2人いるだけです。その他は年配者だけで、生まれても育たなかったり、奇形に生まれたものは育てないというのが、この村の掟です」
 老人は、少し厳しい顔で、恐らく近親結合によって生まれた奇形児を葬って来たのだろうことを暗に仄めかした。
「このままだと、村も途絶えるが、ツルギに流れる南朝のお上と、我らが祖先の血も途絶えることになる。と言って、あの娘たちとの婚姻は、既に血が濃すぎてかなりの可能性で奇形が生まれるであろうことは承知している」老人は真剣な顔で言った。
「そこで、貴女に白羽の矢が向けられたのです」
 老人の話は丸山を更に驚かせた。

「貴女は、元々は滋賀県伊賀の生まれであることは知っておられると思う。今は伊賀市六所町となっているはずだが、そこは、昔この村と先祖を同じくする六所という村でした。貴女の高校の校長をしている関矢さんも、その六所の出身です」
 校長の関矢が滋賀県出身だということは今回分かったが、自分と同じ小さな村の出身ということに更に驚いた。
 そして「これが、あの神主が言っていた、私の運命なのか」そう思った。
「貴女は、その一族の本流を継ぐべきお方の一人娘で、先祖の約束で、九州の一族の血が途絶えるような事態になった時は、その滋賀の一族の本家の、相手が男ならば女子と、女であれば男子と結ばせて、血を繋ぐことをお互いに伝承してきたのです」
 あまりに突飛な話に、何も言えない丸山を前に、老人は話を続けた。

「そして、この村に良成親王と親王を守護した我が忍びの統領の娘で、巫女でもあった妃を始祖として18代目の皇子が誕生しました。そして、それはすぐ、伊賀の六所にも知らされることとなりました。
 ツルギという名前は、都流祁と書き、京の都から九州に遠征され、この地で亡くなった後征西将軍の嫡流である証と、龍王を彫り込んだ代々の形見の刀剣になぞらえて受け継いだ名前なのです。
 貴女は、その時すでに7歳になっておられ、習わしに従って両親から離れ、六所宮に預けられてました。そして関矢校長の元で教師となられた。それも全てこの日のためです」

 老人は、丸山が理解しているかを確かめるように顔を見て、更に続けた。
「お二人が、出会うように仕向けたのは我々ですが、このような形になるとは想像しておりませんでした。これも龍神のお引き合わせです」
 丸山が、何か言おうとしたのを制止して言った。
「ただ、我々は、今の時代に本人たちの意志に反してまで、一族の血を守るつもりはありませんので、最後はお二人の意思に任せると言うことで伊賀とも合意ができております。
 ツルギは、まだ18歳だが、この村では既に大人の歳です。できれば高校を最後まで終えさせるつもりでしたが、こうなったのも運命でしょう。それに貴女自身がこうしてツルギを連れ戻してくれたこともです」
 そう聞いて、丸山はその偶然さに身震いした。

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