鶴の一声

靏繁樹が日々考えたことや思いついたことを徒然とかきます

*

杣人伝 その33

   

 先頭の男が、先ほどの老人と同じように、笛を取り出して、ピーッと吹いたかと思うと、行き止まりと思われた岩肌の岩が奥にずれて、人が通れるほどの隙間が開いた。
 岩肌には、シダや苔が生えていて、まったく隙間など分からなかったが、こんな大きな岩の扉が、どうして開閉出来るのだろう。
 扉の中に入ると、そこにもまた別の男が、ランプのようなものをかざして待っている。
その薄明りで、扉の仕組みを見てみると、はっきりは分からないが、テコの原理を利用して、一人の力で開け閉めできるようになっているようだ。
 そこから、人が摺り交うほどの広さの暗い洞窟が奥の方に続いている。
一行の列の間に入った3人の男たちが、同じように灯りを持って歩いていく。

 どうも、さっきの陵墓の洞から入って、更に山奥に向かっているようだ。
一度、長く続いた洞穴の出口を出て、四方を囲まれた谷間に出た。そして雑木の中を少し歩いて、更に同じような方法で、次のトンネルを1時間ほど歩いたと思った。
 トンネルを抜けると、まさかこんな山中に、こんな集落があるとは思えないような光景が広がっていた。
 切り立った山に囲まれ、杉の大木が立ちそびえた縦横100メートルほどの盆地に、太陽の光が注ぎ、小川が流れ、人が行き来している。

 人々が、一行の存在に気付いて駆け寄ってきた。
みんなが関矢の方に集まってくる。
「ツルギ様」「ツルギ様」みんなが、そう呼ぶのを聞いて、丸山とみずきは、関矢の名前は、ここではツルギであり、ここが関矢司郎の育った所だと確信した。
 それにしても、この日本に、まだこんな村落が残っていることが理解できなかった。
みんなの服装も、確かに時代劇に出てくる農民のような服装で、丸山とみずきの服装が珍しそうに女性たちが見ている。
 一番大きな小屋に案内される途中も、みんなが物珍しそうについて来る。

 藁で作った座布団を並べた集会場のような場所に通され、暫く待つと、白髭を蓄えた威厳を備えた老人が現れて、2人に話し始めた。
「お二人には、ツルギが大変お世話になりました。ツルギの東京での暮らしぶりは、陰で見守ってきた付き人から、随時報告を受けており、今日、こうしてお二人と帰ってくることも分かっておりました」
 老人の話によると、関矢がこの村を出て以来、その動向は「お付き人」と言われる村の人がネットワークを使って、この老人に伝えていたらしい。

 老人は続けた。
「もう一人、貴女方の後を追って来ている人物がおります。恐らく、お二人が入って来た御陵の前までは辿り着くと思います。しかし、この谷に辿り着くことは何人も出来ません」
「こんな所まで、だれが後を」丸山は見当もつかなかった。
悪い人間では無いようなので、それは展開次第で対応するとのことだった。
 老人は「さて」と言って、この村落とツルギの出生について話し始めた。
2人は、外で同じくらいの年頃と思われる娘2人と話をしている関矢を時々見ながら、老人の俄かに信じがたい、時代小説のような話を聞き入った。

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