鶴の一声

靏繁樹が日々考えたことや思いついたことを徒然とかきます

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杣人伝 その31

   

 第十章 隠れ里

 丸山美穂は、都大会の日から自宅に帰らず、生徒の関矢と共に、都内のホテルで2日間を過ごし、その間、関矢校長に連絡を取って、今回の暴挙を詫びると共に、今後の指示を仰いでいた。
 丸山は、関矢校長の指示を受けた翌日に、人目を避けて身支度をし、午後2時に、関矢と一緒に三沢いずみと品川駅で待ち合わせ、14時30分発の新幹線のぞみ号で京都に向かった。
 京都で、一旦降りて、駅中の、関矢校長から指定された喫茶店で、校長の親戚にあたる神主職で、同じ関矢という老人と会った。

 老人は、昨夜、関矢校長から連絡を受け、滋賀から出てきたということだった。
丸山は、自己紹介をして、関矢と三沢の2人を紹介したが、関矢少年は、3年ほど前になるが、東京に行く前に一時預かっていたということで、初対面ではないとのことだった。
 老人は、校長の関矢から、既に事情を聞いていたらしく、「事情は聞きました。この子が帰るのが予定より少し早くなりましたが、この子は、どうせあと少しで帰ることになっていました。貴女にはいろいろとお世話をかけますが、よろしくお願いします」と静かな口調で丸山に言った。
 そして、関矢に向かって、「これからは運命のままに生きるか、運命を変えるかは君次第です。里に帰ったら、長老によろしく伝えてください」
 それだけ言って、預りものだと言う包みを関矢に渡した。
そして、老人は丸山に謎めいた話をした。
「貴女が丸山先生ですか。貴女は滋賀県の伊賀の生まれですな。わしは貴女のご両親も、貴女を育ててくれた伊賀本山六所宮の宮司もよく存じております。実は、わしが、この少年を東京の関矢に預かってもらうように頼んだのです」
「そういえば、関矢校長は確か滋賀県出身だと聞いたことがある・・・・」
丸山は、初めて、自分と関矢校長が同じ滋賀県出身だということに気付いた。
「これから、貴女が彼の運命を左右することになるのかも知れないが、これは貴女の運命でもあるのです。本当に貴女方は、こうなる定めだったのですなぁ」
 関矢神主は、感慨深そうに言うと、3人の旅の安全を祈って立ち去った。

 3人は、再び新幹線に乗り込んで博多に向かった。
博多に着いたのは既に午後8時を回っており、それから鹿児島本線に乗り換えて、八女の最寄り駅である筑後羽犬塚駅に着いたのが9時過ぎだった。
 駅前の予約していたホテルは、駅を出て、すぐ目の前だったので、取り敢えずチェックインを済ませて食事をしようということになった。
 丸山は、これから起きること、見るだろうことについて不思議と一切の不安もなかった。
辞職することについては、関矢校長と、朝倉教頭には引き留められたが、今回の事件の責任を取り、2人に詫びるとともに、品川高校には戻らないことを告げていた。
 丸山は、この関矢少年を担任として預かった時から、何か運命的なものを感じていたし、最後まで見届けたいと言う思いがあったし、京都の関矢老人の話を聞いて、一層それを確信していた。

 ホテルの受付で、この時間でも食事が出来る店が近くにあるか尋ねると、9時を過ぎていても、駅周辺には居酒屋や焼鳥屋は多いし、すぐ裏の路地のラーメン屋も開いているはずとのことだった。
 3人がカウンターの前で、九州だからラーメンにしようか、焼鳥屋にしようか相談したが、みずきが「こんな時でないと行けないから」と言う、みずきの希望を入れて、焼鳥屋に行こうと言う話になった。みずきも、昨日からの出来事を忘れているように燥いでいる。
 それを聞いていたのだろう、カウンターの中の初老の男性が「焼鳥屋に行くんだったら、ちょっと歩いた所に「雁ノ巣」という店があるから、私も時々行くんだけどね。結構旨いよ」と助言してくれた。
 結局、夕食はその焼鳥屋になってが、関矢の故郷に帰って来た安心感で、3人とも数日ぶりに美味しいものを美味しいと感じる食事だった。

つづく

 

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