520 必要悪
必要悪という言葉がある。
悪が必要な訳はないのだが、例えると、こういう言葉になるのだろう。
本来の意味は、例えば昔、街にやくざが一家を構えていた。やくざは本来、非社会的な存在なのだが、やくざとしての掟を守り、素人には手を出さないため、怖い存在だが地区民と共存していた。そのやくざ一家が途絶えると、街に俗に言うチンピラが増えて、地区民に言いがかりをつけたり、暴力を振るったりするようになった。
みんな、以前のやくざが居た方がよかったというのが、必要悪となるわけだ。
つまり、人に迷惑をかける輩に対して、それを押さえつける、もっと強い悪の存在。
似たような言葉に、毒を以て毒を制するというのがある。
近年、台風や雨の被害が相次ぐ。
これらも、人に迷惑をかけることについては悪と言えるかも知れない。
こんな時期に、こんな例えをするのは不謹慎かも知れないが、こんな大雨や台風も、必要悪と言われることもある。
例えば、有明海は元々、赤貝やアサリの一大生息地で、漁業も盛んだったが、汚泥などの沈積で酸素不足を起こし、生息が激減している。
しかし、台風が来ると、湾の底までかき混ぜることで、酸素供給作用を起こし、海底の生物を助けている。
また、家庭などから流されていた廃棄物も、人の生活に対しては悪と言えるが、そんな生物の栄養源となっていたという事実もある。
大雨は、時に、人に災害をもたらすので、これも悪となのことがあるが、梅雨時期に必要な雨量がないと、農作物は秋の収穫まで持ちこたえられない。
近年、河川が汚れたれ、ゴミや堆積物が溜まっていて、それを人手で掃除するのは簡単には出来ないが、大雨による増水は、そんな汚れた川を一度にきれいにする作用がある。
流石に、今回のような極端な豪雨になると、川が氾濫したり、土砂崩れが起きたりと、まさに、「過ぎたるは及ばざるが如し」で、私たちにとって、必要悪ではなく、ただの悪でしかない。
現代の我が国は、警察力が強くなり、前述のやくざなどの必要悪は不要となったし、そんな律儀なやくざは居なくなった。今は、弱い人を助けるという仁侠の世界ではなく、人を食い物にするだけの私利私欲の暴力団という存在しかないと思ったがいい。